既婚者を好きになった話
もうタイトルだけで、ある一定数から反感を買う。
嫌な気分になりそうな人は読まないほうがいい。
既婚者と付き合っていた。
いや、本当に付き合ってたのかな?
相手は常に複数人女がいるような強者だった。
私は勝手に彼氏と思っていたけれど、相手にとってはどうだっただろうか。
政令指定都市のお洒落なバーのマスターだった。
細身で背が高くて、向井理とミスチルのボーカルを足して二で割ったら出来上がるような顔だった。
奥さんも綺麗な人で、可愛らしい顔の美人だ。
子供は有名な私立学園に入学したらしい。
奥さんは綺麗なホテルや夫婦での食事をいつもフェイスブックに上げている。
側から見たら、順風満帆の良い家庭だ。
ただ、女癖が悪かった。
私が知り合った頃は、そんな人だとは全く思ってなかった。
奥さんのフェイスブックの投稿が家族写真ばかりなので、仲が良い家庭なんだな、という風にしか見てなかった。
その頃、私は別の人が好きだったから、正直歳も離れてるし、好みの顔ではないし
ただ、イケメンだな。
という印象しか抱いてなかった。
その当時学生だった生意気な私を、下に見ず美味しいお酒を作ってくれた。
良いお店であり、良いバーテンダーだった。
卒業して、引っ越した後は、たまにそのバーに行くぐらいで前ほど頻繁に顔を合わすことはなかった。
引っ越し先では慣れない社会人生活にいっぱいいっぱいで、その人のことなんて忘れていた。パワハラをする上司や嫌味を言うお局に挟まれながら、余裕のないまま、日々を過ごして、すり減っていく心をカウンセリングと、時々薬で誤魔化しながら生きていた。
こんな状態ではいけないと地元に戻ってきた。
そして1年前、彼と久しぶりの再会をはたした。
戻ってからも、私はまだ精神的に不安定で、何度もカウンセリングに通い、眠れない夜も続いていた。
そんな時だったからかもしれない。
彼の誘いに乗ってしまった。
色んなことがあって、私は女性としても人としても自信を失くしていた。
だから、好きだと言われて単純に嬉しかった。
今までまともに人と付き合ったことがなかった。
好きになる人ができないとか、そんな理由ではない。
人並みに振ったし、振られた。
元々、とりあえず彼氏がほしいという欲望も結婚願望も薄いせいか、なんとなくで誰かと付き合おうということもできず、かといって好きな人に振り向いてもらえることも出来なかった。
社会人になってからは御察しの通りだ。
だから、キスもセックスも彼が初めてだった。
最初の一歩は怖かった。
何もかも、不倫だって初めてだ。
じゃあ何で一歩踏み出したんだ、と言われると、別の恐怖心だったという以外ない。
20代半ばでやってない事項があまりに多すぎた。
ここで踏み出さなければ、未経験のままな気がした。
そうなると、女性として不完全だと思われる気がした。
私があの人を好きになって、たくさん傷ついて、苦しい思いをするとわかっていた。
でも前に進んだ。
焦りと恐怖と
あと、誰の温もりが欲しかった。
知り合いだったせいもあって、好きになるのに時間はかからなかった。
2人でいる時、幸せな気持ちで満たされた。
ただ、こんな関係はもって1年だ。
こういうのは大体相場が決まっている。
片方が飽きるのが早いか、もう片方が傷つきすぎて疲れるのが早いか。
私の場合は前者だった。
先月になってから、連絡が途絶えた。
いつもは電話したら折り返してくれたのに、折り返しがなくなった。
メールも返ってこなくなった。
私は私なりに彼のことが大好きだったから、落ち込んだ。
今でも落ち込んでいる。
彼に会いたいときは、彼のお店へ行っていた。
ほぼ毎週行っていた。
けれども、もう1ヶ月以上顔を見ていない。
それは単純に私の事情だが、その間に彼から連絡は全くない。
本当は都合よく扱われているのはよく分かっていた。
分かっていたことなのに、現実を突きつけられると悲しい。
彼と結婚したいなんて思ってなかった。
可能な限り一緒にいれればいいと思っていた。
向こうが終わりだと言ったらそれを受け入れるしかないと考えていた。
なのに、未だにこんな夜は涙が溢れて止まらない。
もう終わりにしなければいけない。
この1ヶ月、何度もそう考えた。
誕生日に会いにきてくれたことも、ホワイトデーにウサギのぬいぐるみをくれたことも、心から嬉しかった。
本当に大好きだった。
もう見てはいないけど、相変わらず奥さんのフェイスブック自慢は続いているだろう。
奥さんも本当は浮気に気づいていて、自分を保つために必死で自慢をしているんだなっていうのはわかっている。
それでも、家族の写真を見るのは辛い。
これからは好きじゃなくなるように頑張るつもりだ。
まだ時間はかかりそうだけど、何とかする。
でも、ひとつだけワガママを言わせて欲しい。
お客さんとバーテンダーの関係に戻るから、また私にお酒を作ってほしい。
身勝手すぎるだろうか。